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「日本語教育の推進に関する法律」で何が変わる?~基本的な方針を解説~

 

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2019年6月28日に「日本語教育の推進に関する法律」が公布・施行されました。

 

 

2019年末時点で、在留外国人の数は約293万人(人口の約2.33%)にまで達し、過去最高を記録したそうです。

 

また、新たな特定技能ビザも2018年4月に施行され、今後も在留外国人の増加が見込まれることから、

彼らが日本語の問題で社会から孤立しないようにするために、国を挙げて日本語教育に力を入れていくことになりました。

 

 

そして先月、2020年6月23日、法律よりもさらに具体的な、「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」が策定されました。

日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針の閣議決定について | 文化庁

 

 

この方針の特徴や、大きな変更点について解説していきます。

 

目次

 

 

1.外国人児童について

 

まず、この方針で中心的に扱われているのが、外国人児童の教育を推進することだと感じました。

 

2019年の文部科学省の「外国人の子どもの就学状況等調査」によると、

日本語指導が必要な外国人児童は5万人以上おり、そのうち約2万人は就学していない可能性がある、または就学状況が確認されていないのだそうです。

 

これは大きな問題ですね。

 

国によって、教育のシステムも教育に対する考え方も違いますし、日本語の問題で、自治体から正しい情報が伝わって いない可能性もあります。

 

その子どもたちは、将来どうやって生きていくのでしょうか。

 

そこで、

・公立学校に外国人児童を受け入れられるよう、日本語教員の養成および配置をする

・公立高校入試で、帰国・外国人生徒に特別枠を設けるなど、配慮をする

地方公共団体が就学状況を把握し、保護者に分かりやすく情報提供をし、就学を促進する

・外国籍の生徒が約8割を占める夜間中学を、全ての都道府県や指定都市に少なくとも一つ設置する

・地域の日本語教室のICT教材、オンライン化を促進

 

など様々な具体例が挙げられていました。

 

マイノリティの方を見過ごさない社会にならなければいけません。

 

 

2.留学生に関して

 

留学生に関しては、就職の支援を行うというのがポイントです。

ご存知の通り、留学生数は右肩上がりです。

※ただし2020年度の学生は、新型コロナウイルスの影響で、ほとんど入国できていない状況です。

 

しかし、せっかく大学に進学しても、就職活動の知識がないあまりに、うまくいかないケースが多いようです。

 

 

就職活動とは、基本的に孤独な闘いです。

 

・就職活動のスケジュール

・就職活動のマナー

・自己分析

エントリーシートの書き方

・企業研究

・面接の対策

・就職後のビジネスマナー、ビジネス日本語

など、留学生だけでなく日本人にとっても、自ら動かなければ、分からないことだらけです。

 

そこで、

・大学で「ビジネス日本語」の教育プログラムをつくる

・大学や専門学校が、企業と連携して就職のサポートを行う

 

などの対策を講じるよう示されました。

 

 

3.働く外国人に関して

 

働く外国人に関して言えば、

・日本の価値観

・社会人としてのルールやビジネスマナー

・仕事に関する専門的な日本語

などを、彼らがすべて知っているものと考え、企業側の配慮が足りないこともあると思います。

 

そこで、

・日本人の社員が、外国人社員とのコミュニケーションの仕方を学ぶ

・事業主が、仕事に関する専門的な日本語の教材開発を支援する

・労働法、雇用システムなどの労働に関する常識を研修で教える

 

などの例が挙げられました。 

 

企業が労働法を守らず、彼らも知らずに損をしてしまったら、本当に気の毒です。

コンプライアンスを遵守し、彼らが働きやすい職場環境をつくっていってほしいものです。

 

 

4.地域の日本語教育に関して

 

地域の日本語教室の利用者は、働く外国人とその家族、日系南米人、中国帰国者、インドシナ難民など様々です。

 

彼らが日本語学校に通う余裕があればいいのですが、そうでなければ、地域の日本語教室に通わざるを得ません。

 

しかし、外国人がいるのに、日本語教室がない地域もあるそうです。

 また、ほとんどの日本語教室は、ボランティアの方が教えています。

 

そこで、

・日本語教室がない地域に日本語教育の専門家をアドバイザーとして派遣し、日本語教室を開く。

・日本語教室に通えない人には、ICT教材を開発し提供する。

という内容が示されました。

 

地域の日本語教育についても、大きく変わっていくかもしれません。

 

 

5.日本語学校日本語教師の質の向上

 

日本語学校の質については、法務省に「適正校」と認定された日本語学校で様々な課題があることから、2019年8月に基準が厳格化されました。

 

今後、実地調査が行われるなど、日本語教育機関に対する指導が厳しくなることが予想されます。

 

そして、日本語教師の質を向上させるために、新たに国家資格を設け、教師の段階別に研修を行うことになりました。

 

その国家資格の名称は「公認日本語教師」です。

それで、教師の待遇がよくなることが期待されます。

 

日本語教師の資格化に伴い、日本語教師の職業としての魅力が社会により一層浸透し、処遇の改善が図られていくことが期待される。

文化庁日本語教師の在り方について(報告)」

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/kokugo/hokoku/pdf/92083701_01.pdf

 

 

6.「日本語教育の参照枠」と、「日本語能力の判定基準」をつくる

 

世界には、学習者の語学習得状況を示す際に用いられるガイドラインとして、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)というものがあります。

 

例えば、英語の試験はTOEIC, TOEFL, IELTSなど非常に種類が多いので、〇点ならレベルA、△点ならレベルBというように、点数によって語学力の評価ができます。

 

それに合わせて、教育機関が指導方法を考え、カリキュラムを組むことができます。

 

 

それと同じように、「日本語教育の参照枠」を作成し、それを基にJLPT等の試験と関連付けた「日本語能力の判定基準」を設けることになりました。

 

 

 

7.まとめ

 

この方針を短くまとめると、以下の内容です。

 

①外国人児童をちゃんと就学させて、進学のサポートをしよう

②留学生の就職を、大学と企業がサポートしよう

③企業は、働く外国人が損せず、働きやすい職場づくりをしよう

④在留外国人が誰でも学べるよう、すべての地方公共団体で日本語教室を作ろう

⑤基準を厳しくして、日本語学校と、日本語教師の質を向上させよう

⑥「日本語教育の参照枠」と、「日本語能力の判定基準」をつくる

※ちなみに、この「基本方針」は5年ごとに見直されるということです。

 

 

この方針の中で多かったのが、「連携」という言葉でした。

 

確かにこれまで、在留外国人の対応を、企業、教育機関地方公共団体、政府各々で動いていて、まったく連携が取れていませんでした。

 

そして、彼らの情報が共有されず、日本語能力が十分でないまま、社会から孤立してしまった在留外国人は少なくないのでしょう。

 

今後、新型コロナウイルスが落ち着けば、さらに在留外国人が増えることが予想されますし、すでに今、日本で生活している人たちも多いです。

彼らも私たちも、安心して暮らせる社会を目指していきたいですね。